ビブラートがかけられない

映画が好きです

エターナルズについて思うこと(ネタバレ有り)

エターナルズは良いところは沢山あるし、今の時代に作られた意義のある映画だと思う。ただし、それはどうなの?と思うところもある。1個人の中でも賛否両論な映画だというのが、まず自分の中での立ち位置になっている。

良いところをあげるとすれば、やはり俳優陣の魅力だろう。言うまでもなくマ・ドンソクは最高だった。今までの良い奴なマブリーと可愛いマブリーを詰め込んで世界に食らわせるインパクトのあるキャラクターだった。中盤で死んでしまうのは残念だが、あのタイプのキャラクターは大体最終決戦手前までに死んでしまうのでまあしょうがないかとも思う。手話で話すマッカリも楽しいキャラクターで、アメリカで手話を使いたいと思う人が倍増したのもよく分かる。なんかかっこいいし、多分口で話すより早いから彼女のスピードスターというキャラクターにもあっている。その他大抵のキャラクターが俳優の良さを十全に活かしていて素晴らしいと思う。

後は、映像も映画館で見てよかったと思えるものだった。クロエジャオ力は十分に発揮されており、壮大なストーリーにはピッタリである。また、最後のティアマットの巨大な頭や手の一部が突き出してきている絵はエヴァとかあのタイプのアニメっぽい良さもありあれが見れただけでも収穫があると言える。

劇伴はアイアンマンやゲーム・オブ・スローンズでおなじみのラミン・ジャヴァディ。アイアンマンなどに比べると派手さはないが、壮大さと神秘的な雰囲気を併せ持つメインテーマはSpotifyで何度も聞き直している。いわゆるスルメ曲というような何度も繰り返すとより良さがわかってくる良いテーマ曲だと思う。

上記の良さで、MCU映画としてもビックバジェットの大作映画としても映画館で見て良かったといえる良作だと思う。ただし、初めに描いたように気になる点もある。

まずは、序盤のボリウッドシーン。本場に比べてしょぼい。ボリウッドのダンスシーンをやるなら例え1分程のシーンだとしてもちゃんと本場に負けないものを出すべき。インド映画を普段見ない人がインド映画とはあの程度と思ってしまったらどうするんだ。もっとちゃんとして欲しい。メインのヒーローに多様な人種を配置して、色んな人に見てもらおうと言うのであれば、他国の素晴らしいエンタメの引用はより気を使うべきだ。

また、これだけ素敵な俳優陣を集めて感情を表現するのにやることがヘテロロマンスなのも辟易する。ファストゥスとキンゴ以外はヘテロで2人組ができるようなキャラクター設定で、気を使ってみればロマンチズムはないとも見れるコンビもいるが、何故こちらが気を使ってやらなくてはならないのか。スプライトとセルシとその彼氏とでしばらく暮らしてたならそこに友情もあっただろうがあまりフィーチャーされず、どこに魅力があるのかよく分からないイカリスにセルシもスプライトも惚れていて、それが原因でスプライトが離反したりもするが、スプライトがそこまでしてやるような男なのかイカリスは。エターナルズにも愛があってみたいな話にするなら、ヘテロロマンスじゃなくて、ディヴィアンツや人間との交流でそう感じさせて欲しかった。セナとギルガメッシュはとても魅力的だけど、同性を配置しても良かったんじゃないかと思う。キンゴがお付の人といい関係を築いていたり、ファストゥスが同性のパートナーとその子供と関係を築いていることで、ヘテロロマンス要素を薄めていると思うが、ロマンチズムの占める割合が多いし別のやり方でキャラクターを描いて欲しかった。

上に少し名前を出したが、ディヴィアンツはもったいなかった。主人公達以前にセレスティアルズによって作られたが、セレスティアルズにとって都合が悪い行動をするようになり、主人公たちによって処分される存在になった生物。美味しい設定が盛り沢山かつ機械の獣のような見た目で上手くやれば人気の出るヴィランにできたかもしれない存在だったのに、劇中での活躍はしょっぱい。せめて最後にセナが見逃すならこれからに期待できたが、殺してしまったのでどうしようもない。せっかく話すことができるようになったのだからエターナルズと対話をして欲しかった。アクションにしても過去のシーンは雄大な自然の中で人を襲ったりカラフルな古代文明の中でマ・ドンソクに張り手をされたり楽しいシーンが多かったが、現代パートは夜の街中、霧がかった林、洞窟がアクションパートの舞台で暗くて見にくい。アクションでもいまいちパッとしない敵になってしまった。本当にもったいない。多様性というなら倒されるべき存在とされていたものにももっと目を向けて欲しかった。

その他の気になった点としては原爆のシーン。アメリカ映画の大作で人類の過ちとして描かれるのは正直驚いたし、意義のある事だと思う。ただ、あの描写では原爆による悲惨な死の実態があまり見えないように思う。日本にいれば大抵の人に学ぶ機会がありファストゥスが何をみて絶望したのかが分かるが、果たして原爆が帝国主義の日本を倒すのに正当なものであったと考えている人達にも伝わったのか疑問が残る。たくさんの人が死んだことをエンタメ化すべきではないとは思うが、ピントはあっていないが焼け焦げた死体が背後にあるような絵にするだとか、あそこにいた人間を描く方が誠実だったのではないかとも思う。

色々と映画への文句を書いたが、上記のことは正直いってひとつの映画に求めすぎていると自分でも思う。しかしここまで出来るのであればより丁寧に創って欲しかった。素直に感動したかったという気持ちが強い。ポリコレでこの映画がつまらなくなっていると言う人もいるが、そんなことは無い。ただし、この映画の多様性やポリティカル・コレクトネスが完璧かといえばそんなことも無い。それでも、やろうとしたことは間違っていないと思う。ドラマシリーズの挑戦も含めフェーズ4の目指すところは応援したい。